2020年7月9日に開催された、「空き家ゲートウェイスター」を発掘するためのコンテスト&審査会の様子をお届けします。
無期延期を経て、ついにオンライン開催が実現
このコンテストの目的は、空き家活用の優れたアイデアを持つ人、すなわち「空き家ゲートウェイスター」を発掘すること。そのため、空き家ゲートウェイが紹介している2件の「100均物件」について活用アイデアを募集したところ、国内外から多数の応募がありました!
対象物件:
埼玉県熊谷市100万円物件
空き家ゲートウェイで掲載されている埼玉県熊谷市にある100万円物件。
オーナーのかつてのご実家で和風のつくりが特徴の物件。
②長崎県波佐見町100円物件
空き家ゲートウェイで掲載されている長崎県東彼杵郡波佐見町にある100円物件。
波佐見焼で有名な町の奥にある修理必須ではあるが、綺麗な内装が特徴の物件。
その中から優秀なアイデアを提案してくださった4組に、4月17日の審査会でプレゼンテーションを行っていただき、最優秀賞を決定する予定でした。しかしご存じの通り、新型コロナウイルスの影響で無期限延期となり、7月に入ってようやく、オンラインイベントとして開催することができました。
今回審査会に選定されたのは以下のアイデアです。
日本一ホットなバンライフステーション
「熊谷BASE」を作ろう!
内山大地さん
想定物件:熊谷
バンライフ(バンを住居・オフィス・移動手段として使うライフスタイル)を実践する内山さん。時間や場所にとらわれることがなく、便利で楽しい一方、水回りなどの機能は既存のインフラに頼らざるを得ないことが気になっていたそう。そこで空き家を改装し、同好の士が集まりキッチンや風呂などを利用できる拠点として活用していこうという提案でした。
焼き物のまち波佐見でゆったり
レトロウェディングをDIY
塚原彩さん
想定物件:波佐見
波佐見町のある長崎県在住で、予算や仕事などの事情で式・披露宴・新婚旅行をしたくてもできない人、大々的な式ではなく少人数のパーティーを楽しみたい人、そしてこうした式を自分でプランニングしたい人を対象に、空き家を改装した物件に一定期間滞在し、式と披露宴をDIYするというプランです。
空き家DIYスターターキット
上見浩基さん/犬童伸浩さん
想定物件:熊谷
リノベーションの予算を抑えたいときに障壁となるのが水回り。改修工事は大規模になるし、水回りの工事中は物件に住むことは難しい。そこで、トイレ、シャワー、キッチンをまとめた増築ユニット「空き家DIYスターターキット」を販売し、低予算なセルフリノベーションの実現を応援しようという、ベトナム在住と三重在住の2人の建築家による提案でした。
発信する家
和田とおるさん
想定物件:波佐見
リモート化が推進される中、地方創生と少子高齢化など地方の課題を解決するために、土地の文化を発信する拠点として空き家を活用するという提案です。空き家はスタジオとして改装し、発信のための機材を完備。物件の運営費は発信したコンテンツの広告料でまかなうというもの。スイス在住で日本の仕事にも携わるクリエイターならではのアイデアでした。
最終選考に残ったアイデアはどれも個性的かつ魅力的。審査員も大いに悩んだようで、審査は予定時間をオーバーしてしまったほどでした。議論の結果、波佐見の空き家でウェディングをDIYしようという塚原彩さんのアイデアが最優秀賞に選ばれました!
審査員のコメントは以下の通りです。
審査員総評
唐品 知浩
株式会社リゾートノート取締役
別荘専門の不動産サイト「別荘リゾートネット」編集長。自身も暮らす東京都調布市を拠点にするまちおこし会社・合同会社パッチワークスを立ち上げる。「ねぶくろシネマの」「いっぴんいち」「棟下式」「こどものしゅうかつ」なども主催。個人的に「◯◯を面白がる会」というブレスト型飲み会を各地で開催する。
今回は、主にターゲット層の広さ、マネタイズの確実性といった観点で見ていました。そういう意味で、波佐見のウェディングがもっとも可能性があるのではないかと感じられました。また、DIYなどで共同作業をしていると、精密さの感覚が少しでも違うとストレスになるので、結婚する前にそういうことがわかるのもいいと思いました(笑)。
嶋田洋平
らいおん建築事務所代表取締役
建築設計事務所勤務を経て2008年らいおん建築事務所を設立。全国各地でリノベーションまちづくりによる再生事業を行い、北九州市小倉魚町での取り組みの実績によって「国土交通大臣賞」「都市住宅学会業績賞」「土地活用モデル大賞審査委員長賞」「日本建築学会賞教育賞」を受賞。著書、共著多数。
カリアゲJAPANや空き家ゲートウェイのようなプラットホームが増え、空き家にアクセスしやすい環境が整いつつあります。地方の街や空き家をどうしていくべきか、僕ら含めてコロナ以前から考えていた人は多い。それが、大都市が感染症にもろいと露呈して、それまで意識していなかった人たちも問題に目を向けるようになりました。すぐ行動に移したい人にとっては、動きやすい環境になったと思います。特に塚原さんのような若い人にはチャンスだと思うので、ぜひアイデアを実現するために行動して欲しいと思います。
さわだ いっせい
YADOKARI 株式会社 共同代表取締役 / 共同創業者
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」をウエスギセイタと共に2013年に創業。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、スモールハウス開発、空き家・空き地の再活用、まちづくり支援などを主に手がける。
若い人の間では結婚がどんどんライトなものになっているし、公園などでのアウトドアウェディングのように、空き家も会場としてハマるんじゃないでしょうか。今まで地域の集会所が担っていた役割が、空き家にリプレイスされていくのかなと感じられて面白かったですね。
空き家ゲートウェイができて、これまで誰も見向きもしなかったような物件の面白さが知られるようになり、若者が遊び感覚で活用していく世の中がやってきているんだと実感しました。アイデアさえあればクラウドファンディングで資金は集まります。情熱さえあれば、みなさんのアイデアは実現可能です。
福井 信行
ルーヴィス株式会社 代表取締役
家具店でのアメリカ中古家具のメンテナンスと仕入れ担当、不動産会社勤務等を経て、2005年に株式会社ルーヴィスを設立。2013年より木賃ディベロップメント共同主宰。2015年より空き家の費用負担型サブリースを行う「カリアゲ」をスタート。2016年三浦市宮川町に「人がこなさそうな場所にある商店=みやがわベーグル」をオープン。
実は僕が一番推していたのは水回りのスターターキットです(笑)。ここ5年ほど空き家の借り上げを手がける中で、水回りの改修がネックになって扱えなかった物件はたくさんあったので、やはりハード面をどう考えるかは大きな課題なんです。その課題を解決できさえすれば、空き家活用はもっと広がるはず、と改めて考えさせられました。
コメンテーター
梶原隆之さん
大学教授であり、今回の対象物件(熊谷100万円物件)のオーナー
波佐見でウェディングという提案は、個人的にタイムリーでした。実は最近再婚しまして、この3月に都内での挙式の予約をしていましたが、妻の母に持病があり、コロナ感染を避けるために止むを得ずキャンセルしたんです。三密がダメというこの時代、親族だけで旅行も兼ねて集まれる場所があるなら、自分もぜひ使わせていただきたい。新しい冠婚葬祭の形として、今後流行るかもしれませんね。
最優秀賞 受賞者インタビュー
東京都立大学 建築学科 3年
塚原彩さん
受賞アイデア:
焼き物のまち波佐見でゆったり レトロウェディングをDIY
内容:
予算や仕事などの事情で式・披露宴・新婚旅行をしたくてもできない人、少人数のパーティーを楽しみたい人、式をセルフプランニングしたい人を対象に、空き家を改装した物件に一定期間滞在し、式と披露宴をDIYする。
−受賞おめでとうございます。今回の企画はどこから思いついたんでしょう?
コロナによって大学が1ヶ月の休講に入ったとき、何かコンテストに応募しようと思って見つけたのが今回の空き家ゲートウェイスターでした。出すからには他の人と違うアイデアにしたいと考えていた時、たまたまテレビで結婚式のトピックを目にして、今回の企画を思いつきました。
波佐見の物件を選んだのは、焼き物などがあって土地柄に興味を覚えたからです。地域性などを調べていたところ、結婚式にもぴったりだなと感じました。「結婚式ならパーティがあるし、地元で製造されている器が使えるな……」というように、波佐見の文化や自然環境、歴史などに合わせてイメージをふくらませていくことは、それほど難しくはありませんでした。
−学生さんながら、事業収支計画もきっちり盛り込まれていたのが印象的でした。
以前リノベーションスクール(※)に参加した時、最終的な収支まで考えておかないとダメだと教わったんです。
※リノベーションスクール=空き家・空きビルなどを魅力的に再利用することで、地域活性化につなげていくノウハウを持つ人材を育成する場。北九州市で始まり、現在は全国各地で展開されている。
−審査員のコメントで印象に残っているものはありますか。
「ホテルに展開するなど、もっと物件の使用に広がりを持たせるとよい提案になる」という、嶋田さんや唐品さんからのご意見です。私は結婚式というテーマを決めたら、そこからぶれないほうがいいのではないかと考えていました。でも空き家の活用においては、より幅広く展開できる方がいいんだと考えを改めました。
−他の参加者の提案はいかがでしたか?
プレゼンを聞くことができなかった案も含め、同じ物件なのに着眼点がそれぞれ違って驚きました。例えば、水回りの提案については、さすがプロの建築家さんだと思いました。私の場合、どうしてもソフト面のアイデアに偏りがちなので、今後さらに勉強を重ねて建築的な提案もできるようになりたいと、改めて思いました。
−企画を考えるために、普段からどんなふうに情報収集していますか?
企画が好きで、いつも何かアイデアを考えていますが、そのために意識して情報を集めたりはしていません。ニュースを見たり、たまたま読んだ本に書かれていたことが、ふとした瞬間に企画に結びつくことが多いです。
−将来の目標はありますか?
まだ明確には決まっていません。建築を専攻した理由は、総合的な分野なので、様々な職業、業界と関われるのではないかと考えたことです。建築を学んでいく中でリノベーションなどに興味が出てきましたが、企画が好きなので、建築の知識やアイデア力を生かせる仕事を幅広く考えていきたいと思っています。
−今後のご活躍を楽しみにしています!
ありがとうございます!
塚原さんの企画内容もさることながら、コロナ禍による休講も無駄にしなかったその姿勢がすばらしい! この受賞が、そんな塚原さんのステップアップのための一助になればこれほど嬉しいことはありません。
繰り返しになりますが、最終選考に残った皆さんのアイデアはいずれも魅力的でした。惜しくも最優秀賞は逃しましたが、大きなポテンシャルをひめていることは間違いありません。審査員によるアフタートークでも、それぞれのアイデアを合体させるといいんじゃないか、という意見が出ていました。
今後もYADOKARIでは新たな才能を発掘するプロジェクトを実施予定です。我こそはという方をお待ちしています!