東京から車で約2時間半のところにある茨城県大子町。日本三名瀑の一つである「袋田の滝」があることでも有名な、自然豊かな町です。
大子町に2023年9月にオープンしたのが、大谷石の蔵サウナと古民家宿「DAIGO SAUNA」。10年以上放置されていた空き家と大谷石の蔵をリノベーションして作られた一棟貸しの施設です。
DAIGO SAUNAのオーナーは、ご家族と共に東京と大子町で二拠点生活を送る、一級建築士の和田真寛さん。東京、大子町ともに、ご自身でリノベーション設計を行った元・空き家物件に暮らしています。一級建築士として空き家関連の事業に携わりながら、ご自身もリノベーションした中古物件に暮らし、宿とサウナを営む和田さんに、お話を聞きました。
ここでの暮らしが想像できた
和田さん:東京に住んで3年ほど経った頃にコロナ禍になり、公園でも遊ぶことができなかったりと、窮屈さを感じるようになりました。少しコロナが落ち着いてからは、東京近郊のプライベート空間が広い友人の家に遊びに行くようになり、広い敷地ってやっぱりいいな、田舎っていいなと思うようになりました。僕も妻も祖父母の家が大子町にあるので、それ以外の町で物件を探すことはなく、「買うなら大子町がいいよね」とスムーズに話が進みました。
ーーこの物件はどのように見つけたのですか?
和田さん:この物件は、大子町の空き家バンクで見つけました。4軒内覧をしたうちの4軒目で、「これは絶対に良さそうな物件だ」と見に行って、その場で購入を決めました。
ーー購入の決め手は何だったのでしょう?
元々近くの商店街で旅館をやっていた方が、別宅として1991年に建てた物件だそうです。家を建てたもののあまり長い間住んでいたわけではないようで、建物の状態が良く、雨漏りを直せばすぐに住めるような状態でした。
そういった建物の良さに加えて、景色の良さ、そして田舎でありながら駅が徒歩圏内という立地の良さも決め手でした。しっかりとプライベート空間がありながら、近くに結構飲食店もあって、この場所での暮らしが想像しやすかったというのが大きかったです。
物置状態の蔵をサウナに
ーー二拠点先を探していた頃から、住み開きを行うイメージはあったのでしょうか?
和田さん:最初は東京の友人たちを招く程度で、プライベートな家として使うつもりでいましたが、自分たちが使っていないときにAirbnbなどで貸すことができるのではと思い付きました。当初は事業化するというよりは、バケーションレンタルのようなイメージでしたね。
敷地内にある蔵をどう使うか知り合いに相談していくなかで、「サウナでしょ」と言われることも多く、物件を購入した頃はサウナがブームになっていたので、サウナを作ることに決めました。サウナは投資としては費用がかかるので、きちんと事業化しようと思い、DAIGO SAUNAとして運営することになりました。
ーー物件を購入した当時、蔵はどのような状態でしたか?
和田さん:蔵は物置状態でしたね。前オーナーさんは旅館をやっていた方なので、旅館を引き上げた際の荷物と思われるものがあったり、骨董品の箱だけが残っていたり。そういった残置物を自分で捨てることからリノベーションをスタートしました。
くつろげるサウナのこだわり
ーーサウナにリノベーションする際にこだわったポイントを教えてください。
和田さん:特に座面にはこだわっていて、いろいろな施設を見に行きながら、どんな形状にするか考えました。せっかくの貸切サウナなので、リラックスしながらコミュニケーションをとって、ゆったりくつろぐことができるように、座面は2段のみで、奥行きを広くしました。シングルベッドに近いくらいの幅があるので、あぐらをかいてもゆったり深く座ることができます。
美容や健康をテーマにした合宿では低めの温度に設定して、寝転がってオイルマッサージを施したりすることもできます。また、ロウリュをした時に、サウナ室内で蒸気がじんわりふわっと回るように、天井の形を変えました。
ーーゆったりとした2段の座面は特徴的ですね。燃えている炎を眺めることができる薪ストーブも魅力的です。
和田さん:サウナの温度を上げる際の管理や手間は電気の方が楽ですが、あえて薪で温めています。薪が燃えている匂いを嗅いだり、ぼんやりと炎を眺めるのは田舎ならではの体験だと思うので、薪ストーブにしているのはこだわりの一つです。
もとの素材を活かしたリノベーション
ーー宿泊棟の母屋はリビングダイニングと、宿泊できる個室が3部屋あると拝見しました。母屋をリノベーションする際のこだわりをお聞かせください。
和田さん:母屋は状態が良かったので、購入した頃から大きくは変わっていません。僕は料理もお酒も好きで、東京の家でも度々ホームパーティーをやっています。東京の家だと窮屈なところもあるので、大人数が集まってものびのび楽しい空間にしたいという思いがあり、みんなで料理しながら、お酒を飲めるアイランドキッチンに改装しました。囲炉裏は元々あったものそのままで、内装工事は一切していません。
和田さん:日常と異なった雰囲気にしたいという思いがあり、開放感にもこだわりました。もともとあった天井をなくして、梁を見せる空間にしているので、空間が広く感じると思います。
今の日本ではなかなか梁などの大きい材料を採るのが難しいので、建築の技術や木材の素晴らしさが見えるような形にしたかったという気持ちもあります。
家が持つストーリーを引き継ぐ
ーー和田さんはお仕事でも空き家関連の事業に携わっていますが、住まいに空き家・中古物件を選んだ理由を教えてください。
和田さん:近年は資材や人件費の高騰で不動産価格も上がり続けています。一方で空き家も急増している状況なので、せっかくならそういった空き家もチャンスと捉えて、古いものに手を加えて魅力的な空間をつくるのが楽しいんです。
東京の家でも感じていることですが、もともとあった家を壊して建て替えをすると、近所の人は「新しい人が来た」と身構えてしまうことも多い。ですが自分の体感として、もともとある家の外側が残っていると、「〇〇さんのお家だったところね」と受け入れてもらいやすいように感じます。
空き家を改修して暮らすのは、そういった家が持つストーリーがあるので、周囲からも好意的に受け入れてもらいやすい。自分が東京で暮らしている家も、前に住んでいた方が近所で評判の良い方だったようで、そういった歴史や近所の人の思い出が「家」という形で残っていることで、人間関係が柔らかくなる実感があります。
ーー最後に、和田さんが思う、空き家をリノベーション・改築していく面白さをお聞かせください。
和田さん:中古物件は状態によってですが、0から建築するよりも費用が抑えられることが多いと思います。その分、内装の空間や仕様、庭などのカスタマイズにお金をかけることができるので、好きなことが好きなようにできるメリットがあると思います。
近年の建設業界はインフレだけでなく人材不足も顕著になってきています。不動産価格も上がり続けている状況や建設業界を取り巻く状況を考えると、家を新たに建築することが難しくなっていて、空き家を買ってカスタマイズして自分たちでつくりあげていくようなことがもっと広まるんではないかと考えています。
少し前から日本にもDIYの文化が浸透してきて、ホームセンターで扱っている工具も随分増えたと思いますし、「できることは自分たちでやってみよう!」と自ら手を加えられるのが、空き家の面白さではないでしょうか。
▼DAIGO SAUNAホームページ
https://daigo-sauna.jp/
取材・文/橋本彩香
写真提供:DAIGO SAUNA