2022年4月に、横浜・弘明寺にオープンした「”共創型コリビング”ニューヤンキーノタムロバ」(以下、タムロバ)。1963年に建設されたビルの4階部分をリノベーションして作られた、一風変わったシェアハウスだ。
タムロバがあるGM2ビルは、1963年に商業ビル「長崎屋」として建てられた。タムロバがある4階フロアは従業員の寮として使われていたそうだ。長崎屋が閉店した後はオーナーや入居者が代わり、現在は株式会社泰有社がオーナーとなり、4階はYADOKARI株式会社が運営を行うシェアハウスへと生まれ変わった。
入居者の”クリエイティブ最大化”を目的とするこのシェアハウスでは、個人部屋の原状回復義務がないのが特徴だ。今回はお部屋をDIYして暮らしている再生家のNodomことガスさん、イラストレーターFJMYことふじまゆさんのお2人に「つくりながら暮らす」日々について話を聞いた。
身の回りの空間を見つめる
ーーお2人がタムロバに住むことになった経緯を教えてください。
ふじまゆさん:私は元々別のシェアハウスに住んでおり、退去後に1ヶ月ほどガスのアパートで同居していました。さすがに狭いなと感じていたタイミングで、タムロバに住む1期生に知り合いがいたこともあり、2人で遊びに行きました。
ガスさん:タムロバに遊びに行くと、1期生の知人がタムロバの特徴や良いところを紹介してくれました。コンセプトや空間の作り方も含めて惹かれるところが多く、作業スペースが広くなることにも魅力を感じて、2人で住むことに決めました。
ーーDIYで魅力的に作り上げたお部屋がとても印象的ですが、タムロバに入居する前にもDIYの経験はあったのでしょうか?
ガスさん:僕は日曜大工のように、昔から棚や机などを作るのが好きでした。自己流ではありますが、タムロバの前に住んでいた賃貸アパートでもDIYを楽しんでいました。
ーー前のお家ではどのようなDIYをしていたのですか?
ガスさん:ロフトがある部屋だったのですが、そうすると頭上のロフトがない部分は、吹き抜けの何もない空間になりますよね。自分が住んでいる部屋に自分が行けない場所があるというのがもどかしく、ロフトを延長させて作品を置いたり足湯ができるスペースを作りました。ロフトの手すり部分に垂木を乗せて、その上に板を重ねただけでしたが、四方八方に板を張りめぐらせて人が乗れる強度にしました。タムロバでも前の部屋から持ってきた木材を使ってDIYをしています。
ーー部屋のデッドスペースに足湯を作るというのはかなり挑戦的なDIYですね。ガスさんがお部屋をDIYするようになったのは何かきっかけがあったのですか?
ガスさん:大学時代にいろいろな人と話をして、考え方や人との向き合い方が大きく変わったタイミングがありました。空間や人との接し方をもっと大切にしなければと思うようになり、身の回りの空間をきちんと見つめてあげたくなったんです。それまで部屋のDIYをしたことはありませんでしたが、できることを一つひとつやってみたら、いつの間にか部屋が進化していました。
アイデアを掛け算する
ーータムロバには2人で入居可能な部屋が3部屋ありますが、この部屋を選んだのはなぜですか?
ガスさん:この部屋は壁一面が窓になっていて、内覧をした時にどの部屋よりも光の入り方が気持ち良かったんです。ベランダがあるのも魅力的でしたし、部屋が2つに分かれているので、機能を分けていろいろなことができそうだなとイメージが膨らみました。
ふじまゆさん:私は内覧したときに、「住むなら絶対にこの部屋だ!」と感じました。他の2人部屋は縦長に2つのスペースが繋がっているけれど、この部屋は横並びだったので、空間の切り替えができてより遊びやすそうだなと思いました。柱のくぼみや出っ張りの活かし方が難しそうだなと思いつつ、その難しそうな空間をどう遊ぼうかという目で最初から部屋を見ていました。
ーーふじまゆさんも、もともと居住空間にはこだわるタイプですか?
ふじまゆさん:もともとはそれほど居住空間にこだわりのあるタイプではないのですが、ガスの家に遊びに行っていたので、この人と住んだらこだわって空間を作っていくことになるだろうと思っていました。彼の影響を受けて私もやってみようという気持ちになり、自然とそういった視点で空間を見るようになっていました。
ガスさん:5年住んでいた前のアパートではほとんど自分1人で空間を作っていましたが、タムロバでは「ここにこういうのを作りたいね」と2人でたくさん話をして、暮らしや生活のイメージを作っていきました。作ったものをどうレイアウトするか、どう飾るかなど、随所に彼女のアイデアが散りばめられています。
ーーお互いにアイデアを出し合って、お部屋が作られていったのですね。
ガスさん:中央のテーブルはもともとタムロバの備品としてありましたが、下駄箱、服置き場、本棚や小上がりなどは全て自分たちで考えてDIYしました。お互いのアイデアをかけ算して作っていったので、自分1人ではこういう部屋にはならなかっただろうなと思います。
僕はこれまで有孔ボードにあまり興味がありませんでしたが、彼女から有孔ボードはいろいろな使い方ができるという話を聞いて、やってみたら「なるほど、こうなるんだ」と発見がありました。お互いにアイデアを出し合うことで、自分が見過ごしていたアイテムの思わぬ魅力に気付いたのは面白かったです。
ーーお部屋を作るうえでこだわったポイントはありますか?
ふじまゆさん:小上がりは必須でしたね。内覧の時は2部屋あって広いと思っていましたが、実際に住み初めてみると私達の物量ではこの部屋は手狭に感じ、ものを隠す場所を作りたくなりました。そういった収納前提で空間のデザインを考え、下に収納ができる小上がりのアイデアを閃きました。
ガスさん:引っ越して来てからしばらくの間、本は段ボールに眠ったままでしたが、自分の好きな本をきちんと収納したいなという思いがあったので、テーブルと小上がりと本棚が一体化したデザインを考えました。1段目の奥、テーブルの下まで本が並んでいるのが気に入っているポイントです。また、僕はLEDが大好きで前の部屋でも活用していたので、この部屋でも本棚を光らせています。
生活をするなかでかなりレイアウトが変わっていて、1年近くかけて、手前の部屋は作業する場所、奥の部屋は寝る場所という住み分けができるようになりました。
”共創型コリビング”での1年
ーータムロバは“共創型コリビング”という個性的な特徴を持つシェアハウスですが、1年暮らしてみていかがでしたか?
ガスさん:タムロバは個人部屋の原状回復義務がないので、以前の家ではできなかったことができてDIYの幅が広がりました。シェアハウスのコンセプトとしてクリエイティブなことができる土台が用意されているので、そのおかげで自由に楽しめた部分が大きいです。
アーティストもいればアートとは関係のない仕事をしている人もいたけれど、各々刺激を受け合ったのか、ここに住むようになってそれぞれの住人が自然と何かを創り始めていました。僕は初めてのシェアハウスでしたが、他人と一緒に暮らしてみると人それぞれ全く違うものの見方をしていることがたくさんあって、発見の多い1年でした。
ふじまゆさん:私は前のシェアハウスに住んでいた頃はただのフリーランスのデザイナーとして生きていましたが、ガスと出会って、自分の絵を描いて生きている人間がいるということを認識しました。自分は仕事になる絵を描いているけれど、作品を作る生活も良いなと思うようになり、ある日絵の具を手にぐちゃっと取って、その場にあったダンボールにうわっと絵を描いてみたんです。「あぁ、今自分が出てるな」ととてもスッキリして、その勢いのまま洋服にも色を塗りました。
そのままシェアハウスのリビングに行ったら、みんなに「急にどうしたの?病んでるの?」と言われて。私は自分を表現しきってスッキリしているのに、そんな風に言われたことに違和感を覚えました。ですがタムロバではいくら絵の具で自分を塗りたくろうと、「いいね、すごいじゃん」と受け入れてもらえる。自分の居場所が見つかったなと思いました。自分を受け入れてもらえるし、自分も人のことを受け入れられる。同志が集まっている感覚でとても心地良かったです。
ーータムロバに来てとても大切な時間を過ごすことができたのですね。タムロバは基本的に毎年4月の入居開始から翌年3月までの1年間限定の住まいですが、お2人は関わり方を変え、2年目はコミュニティビルダーとしてタムロバに暮らすと伺いました。2年目ではお部屋をどのようにしていきたいですか?
ガスさん:壁を塗ったり、上の空間や照明に手を加えたり、お部屋に関してはまだまだやりたいことがたくさんあります。部屋というのは日々変わっていくが楽しさがあって、一緒に呼吸しているような感じになれたらおもしろいなと思っているので、少しずつ手を加えていきたいです。
ふじまゆさん:私は、今年はこの部屋にどんどん人を呼びたいと思っています。リビングではそれぞれが自由に過ごしていますが、私は1対1でじっくり話をするのが好きなので、周りを気にせずより深い話のできる場所がほしいなとずっと思っていました。なので今年はこの部屋で夜な夜な集まって相談室を開いたりして、タムロバの隠れ家のようなじっくりと語れる場所にしたいと思っています。
暮らしたい家を作るのに大切なのは、建物の築年数でもDIYの技術でもない。アイデアの掛け算と日々の変化を楽しむ2人だからこそ作れる部屋が、これからどのように変化していくのか楽しみだ。
▼ニューヤンキーノタムロバ(HP)
https://newyankee.jp/
※2024年4月以降の入居希望者を募集中です(一般住人のみ)
※2024年度のコミュニティビルダーの募集は終了いたしました