漁業で代々栄えてきたノルウェーの村Vikebygdの沿岸には、昔ながらのボートハウスが連なっている。水産業の衰退に伴って徐々に使われなくなり始めたこれらの倉庫が最近、レジャー用にリノベーションされる例が増えてきた。今回は、中でも特に気が利いているこちらの「Naust V」を紹介しよう。
昨年2015年に完成したばかりのNaust Vは、地元ノルウェー出身の建築グループKoreo ArchitectsとKolab Architectsによる合作。Naust (=ボートハウス)と名付けられた通り、元々あった船倉庫のシンプルな構造をそのまま生かしてデザインされた。
ノルウェーでは、沿岸部のボートハウスは全て公共物であり、その土地のランドマークとして大切にされている。そのため、沿岸部の建築物に対する基準はかなり保守的だ。Naust Vは、こうしたサイズや用途、外観に至るまでの厳しい基準を逆手にとった。外観は伝統に寄り添ったままのデザインが優先されているようで、内部には今風のスパイスを忍ばせてあるのだ。
その魅力は、特に日が暮れた後に明らかになる。日中は、全体をパイン材で覆われた何の変哲もない建物で、まさに倉庫といった風貌である。それが夜になると、まるで障子から明かりが漏れているように、木材の奥から新たな構造が透けて見えるのだ。これは、頑強で水にも強いプラスチックであるポリカーボネートを壁面に採用した結果である。内装も、透明性の高いポリカーボネートと木材を組み合わせたことで、昼間は十分な明るさがありながらも断熱性を配慮した仕上がりとなった。
昔ながらの建物を、放置するのでもなく、そのまま保存するのでもなく、現在のライフスタイルに合わせてひねりを加え、使い続けること。昼夜でふたつの顔をもつ「Naust V」からは、そんなリノベーションの思想がよく伝わってくる。