HandiHouse projectという建築組織が横浜市鶴見区の空き家を活用した家作りの実験場「HandiLabo」。デニム工場の空き物件を有効活用した「HandiHouse」という家作りのための活動拠点です。
前半では「HandiLabo」という場所を作るに至った経緯や思いを紹介しましたが、続く後半では、「HandiLabo」を通じて目指す新しい“家作り”文化について紹介したいと思います。
※前半記事はこちら
⇒ 「家の作り方・楽しみ方の実験場」神奈川の空き倉庫を活用した「HandiLabo」の挑戦(前編)
そもそもHandiHouse projectが「HandiLabo」という実験場を作った背景にあるのは、共同主宰の坂田裕貴さん、加藤渓一さんらがDIY文化の閉塞感を感じたからでした。「ツールの提供ではなく、楽しみ方を提案すべきだ」という考えにもとづき、業界内だけで盛り上がりつつあるDIYへの参入のハードルを下げることを目指したと言います。
しかし、続けてみると、DIYに興味はありつつも、一歩踏み出せない人がたくさんいて、一方では、地方で技術を持った職人が目の前の仕事に追われたり、うまくクライアントに出会えずに困っているという課題が見えてきました。職人はみずからを売り出すような発信が苦手なことも多く、そこで、その両者をマッチングできる場としてオンラインサロン「HandiLabo Online」を作ったのでした。
加藤さんは「一人で行うDIYには限界がある」とも言います。加藤さんが企画した八王子でDIYのできる賃貸マンション「アパートキタノ」では、入居者が同じslack(コミュニケーションツール)のグループに入り、困りごとやDIYに関する相談を行えるようにしました。その結果、DIYに興味のある入居者同士が活発なやりとりを行い、DIY熱がヒートアップするということに気がついたのです。加藤さんは「一人だとある一定のところで満足してしまうDIYも、ゆるいつながりで刺激し合うことで活発化でき、そこから文化を成熟できる」と確信しました。「HandiLabo」にもつながりますが、DIYによって入居者自身が自分の家を作っていくという文化の可能性を見出したのです。
一方、家を建てる大工の側はどうでしょう。熱意ある依頼主に出会えないという課題はもちろんのこと、現場仕事の人工(にんく、人の大工の作業費)にはどうしても限界があり、なかなか稼げないという現状があります。
加藤さんはこうした課題に対しても「HandiLabo」が持つポテンシャルを感じていると言います。「ただ受けた仕事をきちんとやるのではなく、うまくコミュニケーションをとれるようになれば、家作りは大きく変わるでしょう。『大工ではなくエンターテイナーになればいい』ということを知り合いから言われたのですが、まさにその通りで、提案をしたり、ワークショップをするなど、そのスキル自体に自分で値段をつけることができれば、大工にも無限の可能性があるんです」。例えば、一日の大工の人工が2万円だとして、これが現場業務ではなくて、DIYワークショップや企業研修の講師としての仕事であれば・・・。2万円以上の人工を設定することは難しくないでしょう。空き物件を活用した広大なこの実験場を活用すれば、こうした新しい仕事の創造だってできるはずです。
「HandiLabo」という実験場・コミュニティーのいいところは、この大工側も、依頼者側も、両方が混ざり合った場所だということです。しかも、わずかながら月額費をとることである程度、入会する人の線引きもできる。最低限キュレーションされたあらゆるレベルの人々が混ざり、刺激し合うことで、DIY、ひいては家作りという文化が成熟していくというわけです。
「KILTA(キルタ)」という“暮らしのDIY相談室”があるのですが、こうした近しい思想を持つコミュニティがうまく連携し、大きなムーブメントを作っていきたいと強調します。他にも、日本には「リノベーション住宅推進協議会」という組織があるのですが、まさにこういった文化作りの基盤を一般人も巻き込んで作ってゆく。それこそが、坂田さんたちがHandiHouse projectを通じて目指す場所なのです。「“DIYしな_がら家を育てていく”という意味で『HandiHouse』という単語が辞書に載ることを目指したいですね」と加藤さん。
さらに「教育との相性も非常にいいはずだ」というのが彼らの考えです。「HandiLabo」では現在、「原っぱ大学」という親子のための遊びの学校と連携し、小学生、中学生を集めた秘密基地作りを行っています。これを担当するHandiHouse projectメンバーの須藤直紀さんは元・教職員。子供部屋のリノベーション案件なども増えてきた中で、建築と教育を掛け合わせて、単なるリノベーションではなく、教育の一環として子供たちに家作りを体験してもらうことができるのではないかと考えたそう。教育としての家作りの可能性も、実験を通して模索していく計画です。
さて、後半では「HandiLabo」という実験場の可能性について、考えてみました。建築家、大工からDIY初心者まであらゆる人々が交わり、刺激し合う場所として、企業を超えた連携も視野に文化を作っていきたいというのがHandiHouse projectの目指す場所でした。しかも、家作り、DIYを楽しむことで、大工の新しい働き方ができたり、教育にも結びついたりと、あらゆる可能性を秘めているのです。
「HandiLabo」はまだまだ道半ば。そもそも、現代の住宅はDIYを前提として作られていないらしく、通常フォーマットの家の内部をリノベーションするよりも、最初からDIYができる前提の家を建てる方が、さらなる家作りの可能性も見えてくると言います。つまり、家作りのあり方に根本から挑んでいく必要があるのです。幸いにも、日本には今、数多くの空き物件があります。「HandiLabo」のような実験の場として活用されることもできるし、誰もがDIYによって空き物件を有効活用できるようになるかもしれない。“家作りを楽しむ”という文化がこれからどのように発展していくのか、「HandiLabo」の取り組みとともに、ぜひ注目してみたいと思います。