「カリアゲ」とは、横浜や東京を中心にリノベーションを手がける株式会社ルーヴィスによる、中古物件の借り上げ(サブリース)サービスだ。
対象となるのは、築30年以上で一年以上空き家になっている物件。普通に考えればそのままでは借り手はつかないだろう。当然、リノベーションが必要になる。
カリアゲでは、その費用をルーヴィスが全額負担する。その代わりにオーナーから安く借りて賃貸物件として貸し出し、賃料から費用を回収するのだ。
株式会社ルーヴィスの代表、福井信行さんに、このプロジェクトを始めたきっかけや、今後の目標についてうかがった。
リノベーションは空き家問題の救世主?
最近、空き家の増加が問題になっている。原因のひとつが税制とされる。たとえ使われていない家でも建物が建っていれば、土地の固定資産税が軽減されていたのだ。
しかしこの5月、「空き家対策特別措置法」が全面施行され、倒壊の恐れや衛生上有害とみなされた空き家は、市町村による撤去・修繕の勧告や、強制撤去ができるようになった。さらに危険・有害な空き家の場合、固定資産税の軽減対象からも除外されることになった。
しかしそもそも空き家が生まれる背景には、少子高齢化や人口減少にある。ただでさえ家は余るし、空き家を維持管理する資金が潤沢にある所有者ばかりではない。ほうっておけばどんどん家はいたみ、活用するのも撤去するのも難しくなっていく。
そこで、所有者が負担を背負うことなく、空き家を賃貸物件として活用してくれるカリアゲが、空き家対策として期待されているのだ。
2015年1月、カリアゲの第1号物件が着工した。
同サービスを手がけるルーヴィスは、築古物件の個性を生かしたリノベーションに定評があり、効率よく暮らすためにあえて床面積を減らす改築「減築」など、住まいへの哲学を感じられる仕事で知られる。
それだけに、発表直後から建築好きやリノベに関心がある層からも注目を集めた。
その第1号物件「スイッチ下目黒」が完成したと聞き、さっそく見学にお邪魔した。
傾いた住宅が、建築好き注目のDIY物件に
スイッチ下目黒は、最寄りの東急目黒線不動前駅からは歩いて10分少々。目黒不動と林試の森が近く、周辺には緑が多い。木造住宅の間に伸びる車の通れない細い路地を通って行くと、「スイッチ下目黒」の明るいクリーム色の外壁が見えてきた。1階と2階にそれぞれ一室ずつ、2階へは昔ながらの金属製外階段が続いている。新築とは違う、愛嬌のようなものを感じられるたたずまいだ。
中に入ると、内装というほどの内装は施されていない。1階の床はコンクリートのまま、2階の天井は断熱材がむき出しだ。壁も、塗装やクロスなどは貼っておらず、建材がそのままの状態になっている。
それでも2階は竣工後すぐに下見が入り、即契約に至った。今回の見学はそれから1ヶ月ほどあとだったが、1階もすでに入居者は決まっており、じきに引っ越しということだった。
ルーヴィスの代表、福井さんにお話をうかがった。
「築50年以上の物件で、当初は家自体が傾いていました。解体してみると、基礎や土台は腐っていたりシロアリに食われていたりで、ほとんど原型をとどめていなかった。壁だけで建っているような状態でした。
そこでまず、建物をジャッキアップして、基礎をつくりかえてから、もういちど建物をその上に下ろして、耐震補強して、断熱、遮音を施して……と、時間とお金は主に構造にかけたんです。」
福井さんは当初、リノベーション費用を750万円くらいと見積もっていたが、結局、大幅に超過することになった。
「最終的な総工費は830万円に上りました。ほとんど土台や基礎、補強などに使いました。内装には一部屋100万もかかっていません。」
もちろん、手をかけようと思えばいくらでもかけられる。しかし、費用対効果も考慮しなければ、リノベ費用を賃料でまかないつつ収益を上げる「カリアゲ」というサービスが成立しない。
しかもこの物件、建築基準法上、一旦壊したら建て替えることができない「再建築不可」なのだ。だから少しでも長く住み続けられるよう、構造に予算をかけた。
そこで、内装に予算がかけられないことを逆手にとった。それが「DIY型賃貸」のアイデアだ。
入居者が自由に内装に手を加えることができ、原状回復も求めない。誰かが住み続けることで、どんどんよくなっていくというわけだ。
以上諸々を考慮して、家賃は1階88000円、2階90000円と設定した。
「このくらいが妥当というところで決めたんですが、このあたりの相場としては『安い』と言われることが多いですね。
最寄り駅から13分ぐらいですが、自転車移動する人だったらあまり気にならない距離です。緑も多いし環境は結構いいと思います。ただ、リノベ前の状態だったら今の金額はありえないでしょうね」
まず、空き家オーナーの不安を解消
そもそも福井さんがカリアゲを始めたきっかけはなんだったのだろう。
「以前、不動産管理に携わっていたんですが、当時から空き家は問題になっていました。オーナーさんからさまざまな相談ごとを受けているうちに、ひょっとしてリノベーションが有効なんじゃないかと気づいて、それを実践するために工務店を始めたんです。それが今の会社です。
ルーヴィスを立ち上げて10年で約600件の依頼を受け、確かにリノベーションは有効な手段だと確信しました。建物のコンディションはよくなるし、入居者も見つかるし。
でも結局、実際に費用を負担するのはオーナーさんで、こちらがどんなに実績を積んでも、世間的にどんなにリノベーションという行為が普及しても、あちら側からすれば『本当にお金は回収できるんだろうか』という不安はぬぐえないんですね。
それならば、自分たちがそこに投資して回収するスキームをつくったほうが現実的ではないか、真の空き家対策になるのではないか、と考えて始めたのがカリアゲです。
空き家はそう簡単に減らないとは思いますが、本当に少しだけ、問題解決の糸口になるんじゃないかと思うんです。」