ここは、アメリカ・ニューヨークにある「チェルシーマーケット」。一言で説明するならば屋内型商店街。観光地としても人気で、ニューヨークの観光地ランキングでは上位に並びます。
レンガ造りの建物内を一本に突き抜けた通りには、服飾店、食料雑貨店、スーパー、レストランなど、日用品からファッションまで、さまざまなお店が35店舗も連なっています。ここに来れば日常で必要なものは全て揃えることができます。
今や商業施設としてにぎわうチェルシーマーケットですが、かつてはナショナルビスケットカンパニー(ナビスコ)のクッキー工場でした。チェルシーマーケットがある建物の節々を見ると、工場の面影が残っています。
チェルシーマーケットがあるのは建物の1階部分。2階以上にはオフィスが入居しており、中にはGoogle NYといった有名企業や、地元のローカルテレビ局も名を連ねています。外から建物全体を見ると、レンガに覆われた外観が昔の姿を物語っています。
チェルシーマーケットはハドソン川の程近く、マンハッタンにあります。マンハッタンはかつてミートパッキングエリアと呼ばれ、精肉工場や倉庫であふれていました。
1934年には精肉の輸送の利便性を図るため、高架鉄道が敷かれるようになりました。しかし、高速道路の発達により、輸送の主流は鉄道からトラックへ。食品を運んでいた鉄道は使われなくなり、精肉工場の多くが姿を消していったのです。
廃線となった高架鉄道が走っていたレールは、現在空中庭園へと変身しています。鉄道が使われなくなった後、放置されていた鉄道遺構をよみがえらせたきっかけは二人の青年でした。鉄道が走っていた歴史を残したい。そんな思いでNPO団体を発足させ、やがて鉄道遺構をただ保存するのではなく、公園への転用へと事業が進んでいきました。
遊歩道を兼ねた空中庭園は昔の鉄道の名前と同じ「ハイライン」と呼ばれ、地元の人々の憩いの場となっています。ハイラインは旧ナビスコ工場の2階を貫通しています。沿道に添え置かれたさまざまな植物も見どころです。
チェルシーマーケットやハイラインのように、建築物を残し、使用用途だけを変える再開発をコンバージョンと呼びます。再開発事業といえども、コンバージョン最大の特徴は建物を残すこと。チェルシーマーケット以外にも、精肉工場だった周辺の建築物もコンバージョンが盛んに行われているのです。
今でこそニューヨークで活発なコンバージョンですが、1960年代までは建築物を全て解体してから新築する方法の再開発が盛んでした。当時世界最大級の高さを誇り、ニューヨークの象徴として親しまれていた「シンガー・ビル」が再開発事業のために解体されたのもこの頃でした。
時を同じくして、コンバージョンのきっかけとなる活動が起こります。場所はニューヨーク・ソーホー地区。以前ここは工場や倉庫が立ち並ぶ工場地帯でしたが、現在は世界的なアートギャラリー地区として知られています。
変化のきっかけは1960年代にソーホー地区にアーティストが無許可で住み始めたこと。年月が経ち1970年代になると行政も居住を認めざるを得なくなり、街にアートギャラリーが増えていきました。建築物から人を呼び込むのではなく、人に合わせて建築物ができた点でコンバージョンの原点ともいえる事例です。
時代の変化とともに街も変わっていきます。つい新しいものにばかり目が行きがちですが、かつての産業物にも当時の街を豊かにする工夫が詰まっています。チェルシーマーケットとハイラインは商業を結ぶ産業物として活躍しましたが、その根本は人と人とを繋げる役割を果たしていました。そして、現在は人々の交流の場所としてにぎわっています。
既存のものを宝物とするか廃棄物としてしまうかは、私たち人間に委ねられているのかもしれません。
Via:
http://chelseamarket.com
https://www.kimptonhotels.com
http://r-designlab.com
http://coretokyoweb.jp
http://www.clair.or.jp
http://www.newyorker.co.jp
http://all62.jp
(提供:ハロー! RENOVATION)