「再生数が伸びない……」

幼馴染とコンビを組み、芸人としてひと花咲かせることを目指して気付けば10数年。起死回生を目指して空き家紹介YouTubeを始めたけれど、再生数が伸びていない。俺たちの動画には何が足りないのだろうか……。俺・キノミがこうして頭を悩ませている間にも、相方のコガリはにんまりした顔でカワウソの動画を見ている。毒舌漫才師のくせに。

キ「おーいコガリー。お前もちょっとは考えてくれよー」

コ『今度はどこの空き家に行くん？』

キ「和歌山県有田市の宮崎町ってとこ」

コ『お！じゃあみかん食べに行こーぜ！』

キ「お前なぁ、遊びに行くんじゃないんだから……ん？そ、それだ！！」

よし、カメラ回すぞ～

♪タン・タン・タン・タン
『「キノミとコガリでキノコガリっ！！」』

キ「どうもー、空き家芸人”キノコガリ”のキノミですー！本日は、和歌山県有田市宮崎町にある100万円空き家を見に行く前に…」

コ『町内にあるみかん畑に来ています！あ、相方のコガリっす！』

キ「和歌山県の中部に位置する有田市は、なんと言っても有田みかんが有名ですよね！『みかんと生きる』をキャッチコピーにした新規就農の支援プログラムがあったり、『結婚するなら有田市で』をキャッチコピーとした結婚、妊娠・出産、子育て支援パッケージ『Marry You』があったりと、市をあげて移住や定住、暮らしのサポートに力を入れている素晴らしい市なんです！」

コ『あ、僕たち有田市から1円ももらってませんからね～』

キ「余計なこと言わんでええねん。はい、パネル出して！」

コ『ちゅどーーーん！！』

キ「……はい、えー、今回の物件があるのは有田市の南西部、宮崎町です！みかん畑もあれば、上質な魚が獲れることで名高い辰ヶ浜・箕島漁港もあって、海と山、両方の魅力を味わちゃう町なんですねー。それでは早速お目当ての空き家に向かっちゃいましょう！！」

コ『じょぱーーーん！！』

キ「はい、コガリの独特な効果音でひとっとびしましたけれども、実際は『浜入り口』という最寄りのバス停から歩いて5分ほどのところに今回の空き家があります。最寄りの駅はJRきのくに線の箕島駅なんですが、歩くと40分くらいかかってしまうので、バスの利用が断然おすすめです。さぁさぁコガリさん、見えてきましたね～！」

コ『隣の家とけっこう距離が近いんやなー』

キ「近くに小学校があるから自然に囲まれたのんびり子育てライフを送りたい方にはめっちゃおすすめやし、そうは言っても少し奥まった場所にあって物件の裏は山だから、騒音なども無くすごく暮らしやすい雰囲気らしいで。必要以上に気を遣う必要はないけど、俺らもあんまり大きい声は出さんとこうな」

コ『スーーーッッ』

キ「大声用の息を蓄えんな、フリちゃうから！！」

コ『なんやまどろっこしいなぁ』

キ「入口はここかな？築40年の木造物件だけあって、なかなか年季が入っとるなぁ。壁も一部が抜けてしまっているから、住むなら修繕必須やね」

コ『しゃぴーーーん！！』

キ「ドアくらい黙って開けてくれ。ほら、中も見ていくぞ！物件は平屋の3DKやな」

コ『手に負えないほどではないけど、ちらほら残置物が残ってるな』

キ「せやな。仲介業者さんによると少なくとも空き家になって3年は経っている想定らしく、水回りのリフォームは必須とのこと。現状、排水は汲み取り式となっています。っておい！床のシート勝手にめくるな！！」

コ『ぱっと見は綺麗な家だけどなー。ドアの壁紙の一部がたるんでだり、床もシートを敷いて対応してたり、実際住むってなると直したいところがちょくちょくあるな」

キ「お前さ、事前知識ゼロの効果音担当のくせに、たまにセンスだけで100点のコメントしてくるの何なの？……えー皆さん！コガリが言ったように、こちらは外観・内観共に築年数を感じる空き家なので、仲介業者さん的にはフルリノベーションを推奨しているそうですよ！」

コ『けど廃屋ってほど荒れ果てているわけでもないから、ちょっとでも気になった人は実際に自分の目で物件を見たほうが良いと思うな。俺たちが住んでるおんぼろ激せまアパートよりは全然マシやし。」

キ「それは間違いない。あと最近は築年数が経っている空き家を安い価格で買って、自分たちでDIYして理想の家を作っていくっていう粋な暮らし方も流行っているから、そういう人にはかなりオススメしたい物件かもな！」

コ『おおお！それめっちゃ楽しそうやな！』

キ「そうそう、忘れちゃいけないのがこの庭！今は草が伸びているけど、昔は夏場に近所の子ども達とビニールプールで遊んだり、スイカ割りをしていたんやって。段差のないフラットな庭やから、家庭菜園をやるのも良さそうやない？」

コ『それめっちゃええ！食費浮きそう！！』

キ「食いついてほしいのはそこじゃない。えー改めまして！自分好みの家を目指してDIYやリノベーションを楽しみつつ、自分で育てた野菜を食べつつ、海と山に囲まれたのんびりライフを堪能できるこの物件。コガリさん、やっぱりお高いんでしょう？？」

コ『いいえ。なんとこの物件、たった100万円＋仲介手数料で購入できちゃうんです！！！』

キ「ええええ！？！？ということで皆さん！ぜひこのお買い得な空き家をゲットして、あなただけのんびりライフを創り上げてくださいね！」

コ『以上、和歌山県有田市宮崎町から』

キ・コ「『キノコガリの2人がお届けしましたー！！また見てね！！！』」

辰ヶ浜の夕日

撮影が終わり、コガリと2人で海を目指して歩くこと約10分。箕島漁協直営の新鮮市場「浜のうたせ」にやってきた。

長年全国1位の漁獲量を誇る太刀魚を中心に年間200種以上の魚が水揚げされる箕島漁港のとれたて鮮魚が購入できる鮮魚コーナーや、絶品漁港グルメをその場で食べることができる食堂コーナー、地元の野菜や有田のお土産が買えるコーナーがあり、近所に住んでいて（かつ俺たちがもう少し稼ぎのある芸人だったら）、毎週でも通いたいくらいだ。

コ『空き家自体の魅力はもちろんだけど、空き家がある町の良さを伝えるのも大事だよなぁ。この家に住むって、この町に住むってことだもんな』

海鮮丼を食べ終え夕日を眺めていると、相方がまた唐突に100点のコメントを叩き出す。もうカメラは回っていないのに。

キ「俺が町のこと調べてるとき、カワウソの動画見ながらニヤニヤしてただけのくせによく言うよ。」

”みかん食べに行こう”というコガリの一言がきっかけでまちの紹介シーンを思いついたことは、お気楽で天才なこいつには絶対に教えてやらない。

※不動産会社が仲介する物件のため、別途仲介手数料等が発生いたします。

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