※写真はイメージです

「北海道の海が俺を呼んでいる…！」

などと、石○裕次郎でも言わなそうなクサイ台詞を寝言で言っていたと妻・うどんに弄られる日曜の朝。

温くなったコーヒーを啜りながら、今日のコーヒーはちょっと苦いね、と濁しつつ方向転換を試みるも、お土産で人気のあの木彫りの熊の如く、鮭…じゃない、俺の失態(寝言)に食いついてくる妻。

※画像はイメージです

うどん「北海道かあ～！！そういえば、この前テレビでやってたよね？9月になると白老（しらおい）町ってところにサケ釣り目当ての全国の釣りバカが結集するってヤツ。それ観たせいかな？？」

釣りバカ結集って…天下一武闘会みたいな言い方ヤメテくれ。まあサケは釣った事がないから興味があった事は確かだ。と苦いコーヒーを飲みながら苦い顔をしていたら、ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ!とチャイム…ではなく、妻の携帯が鳴った。よくもまあ、そうコロコロと着信音を変えられるものだな。あと紛らわしいヤツは止めて欲しいよね。

うどん「わー！！旦那さん！！めっちゃ奇遇！北海道白老町の元・食堂の物件がワンコインだって！！」

北海道白老郡にある白老町は、北海道道央地方にある人口1万5千人の町。新千歳空港から道央自動車道を利用して約40分、札幌市から約1時間の距離に位置しているので、比較的都内へのアクセスも悪くなさそう。アイヌの人たちが町の歴史の基礎を作っているところから、「民族共生象徴空間」ウポポイというアイヌ文化の復興・創造・発展のための拠点となるナショナルセンターがあるんだそうだ。町名もアイヌ語の「シラウオイ」から来ているらしい。

また物件から車で30分ほどのところには登別温泉や、虎杖浜温泉があるとのこと。夏の太平洋は美しく、9月になると鮭釣りで近郊から多くの釣りバカが集まるそうだ。徒歩10分の最寄り駅・竹浦駅は海のすぐ近くらしい。釣り師には垂涎モノな立地じゃないか…。

ちなみに、北海道だと寒さや雪を懸念する方が多いと思うが…白老町の気候は北海道の中でも温暖で、雪は少なく、屋根の雪おろしの必要がない。さらに夏はクーラー不要という、過ごしやすさのフルコンボとのことだ。

「って、物件地wikiしてたらお約束通り着いたねー！空が広ーい！！」とレンタカーから元気よく飛び出し、早速物件のまわりをチョロチョロし始めた妻。その後を家電らしかぬフラフラした動きでついて行くお掃除ロボットの山田。まだうどんちゃんのジェットコースター並みのドラテクに慣れない様子だ。可哀そうに。

前情報では…もともとは北海道電力の営業所だったところを1988年にリフォームし、約6年前まではラーメンをメインとした食堂として営業していた、と。築62年とだけあって外装はけっこう傷みがあるなあ。屋根の傷みもあり、雨漏りで天井が3カ所抜けているそうでリフォームは必須とのこと。まあこの立地でワンコインなんだ。これくらいのデメリットは想定内だよな。

ここはガレージ？？納屋？？ここも痛みが酷いから、更地にして駐車場にするのもいいかもしれない。店舗として何かするなら、来客用の駐車場は必須だもんな。

2LDK＋食堂スペースと聞いているが…外観だけだともう少し部屋数がありそうなくらい、建物自体はデカいな。ひと部屋が広いんだろうか。室内は外観より傷みが少ないといいが…。

淡い期待を込めつつ、店舗入り口だったところから室内に入る。

ふむ、カウンター数席に小上がりか。厨房、カウンターや椅子、座敷など、食堂としての形がすでにできている。約30年ほど食堂を営業していたが、高齢の為続けることが出来なくなってしまったそうだ。

そして6年前まで営業していただけあって、外観と違いかなり綺麗だ。きっとオーナーさんが、丁寧に使われていたのだろう。ここはさほどリフォームの必要はなさそうだから、外観や雨漏りの箇所に修繕費用を掛けられそうだな。周りには温泉施設や民泊などが多いらしいから、宿泊のお客さんをターゲットにした飲食店にするのも良さそうだ。

この調子なら、他の部屋も期待出来そうだ。

「きゃー！この収納棚、めっちゃ可愛い！！」と先に内見していた妻の悲鳴。

やれやれ、と呆れながらリビングに入ると、さっきまで車酔いでフラフラしていた山田が走り回っていた。

山田『旦那っちぃ～！！このリビング、広くて走りやすいッスわ～！！』

そ、そうか。よかったな。…確かに広い。ちょっとした畳エリアとリビング、キッチンが全て繋がったLDKタイプだ。食堂とは別でキッチンがあるから、店舗と居住スペースが分けられるのは高ポイントだな。そして、この特大ソファを置いていても余裕がある広さ。ちょっとしたサンルームもあるから、洗濯物も天候を気にせず干せる上に、キッチンとの導線も良く、煮込み料理をしながら洗濯物を干したり取り込んだりと、家事がいっぺんに出来そうだ。

うどん「ねえねえ！この収納棚、赤のアクセントがめちゃくちゃ可愛くない？？大きくて収納力もありそうだし！あとキッチンとサンルームの距離がいい感じで、料理しながら洗濯とかし易そうな配置がグッジョブだよねー！」

ああ、俺もちょうどそう思っていたんだよ。もし飲食店をするなら、家事の時間は最小限に抑えたいもんな。そして猫タワーを置いてあげたら、にゃんずにとってもいい日向ぼっこスポットになりそうじゃないか？

うどん「あっ、それ名案！人間用にもベンチシートとか置いて、みんなで夕日見ながらまったりするのも良さそう♪」

それは確かに名案、癒されそうだ。サンルームのガラス部分は修繕必須だけど、キッチン含む室内は本当に綺麗だね。

うどん「うんうん！外観のパンチ力に『やっぱ100円だよねー…』って思ったけど、室内はクリーニングしたらすぐに住めそうな状態だもんね！これでワンコインはめっちゃオトク！！」

ふふ、あとは気になる水回りも見て行こうか。と室内の状態の良さに興奮する妻を宥めつつ、トイレとバスルームへ。

ふむ、こちらも室内と同じくクリーニングすればすぐに使えそうな良好状態。

うどん「しかもバスタブと壁面収納のレッド感がめっちゃいい！広すぎたりタイル張りだと冬はめちゃくちゃ寒いから、これくらいの広さがいいよねー！」

山田『俺っち的には風呂やトイレは興味ねえッスけど、この物件、コレでワンコインって好条件過ぎじゃね？？旦那っち…いち早くﾌﾗｲﾝｸﾞｹﾞｯﾁｭｰしないと他の奴らに獲られちまう！』

両脇からﾜｰﾜｰ言われて思考停止寸前の俺。だがしかし、そんな低速運転の脳みそでもわかる。この物件は「買い」だ！！

年月故の古さはあるが、部屋や残置物の状態から、長年オーナーさんが丁寧に暮らしていらっしゃったことが伺える。きっと次のオーナーにも、同じようにこの場所を愛し、人が集うような場所にして欲しいんじゃないかと、勝手ながら感じていた。

うどん「ここ、本当に愛情込めて大切にされてきた、って感じが伝わるよね～！そういう場所でさ、ほっとするようなカフェやコワーキングスペースとか出来たらいいなー！」

ふふ、やっぱり俺たちは夫婦だね。俺も同じようなことを考えていたんだ。アイヌの人たちが作って来た歴史があるこの町で、アイヌにちなんだお店が出来たら良さそうじゃない？

ウポポイ

山田『それ、イイッすね！俺っち、アイヌ語もダウンロードしときますぜ！！…ｱｰ、Tumpu sircasnure kusu arki yan.』

？？それ、なんて言ってるんだ？？

山田『ｱｰ、ヘヤヲソウジシテクダサイ』

うどん「山田…それお前の仕事…」

俺は無言で山田のスイッチをオフにした後、オーナーさんに購入希望の電話をするのであった。

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