「明けましておめでとう。箱根駅伝見てる？」

空き家マニアの皆さん、お久しぶりです。空き家好きの初恋相手・貝くんを振り向かせるために、日本全国の空き家を調べまくっているちょっぴり重めな女子大生、浜辺まんほーるです。

年が明け、貝くんと再会したあの成人式から早くも1年が経とうとしているのに、私はあけおめメールの一つも送れず、こたつでぼんやり箱根駅伝を見ています。

貝くんは小学生のとき陸上クラブだったなぁ。足が速くてかっこよかったなぁ。……うん、たとえメールが送れなくても、幼き日の貝くんを思いながら見る箱根駅伝、悪くない。

青学2年ぶりの総合優勝に涙しながら、いつもの癖で空き家サイトを巡回していると……

「この物件、長崎県壱岐市。壱岐って、、、『奈緒子』じゃん！！」

そう、壱岐といえば、200万部超の人気駅伝コミック『奈緒子』の舞台・波切島のモデルになった島なんです！！2008年には若き上野樹里主演で映画化もされて、しっかり壱岐がロケ地として使われてたんだよなぁ。たしか海がめちゃくちゃ綺麗だったなぁ。

陸上男子・貝くんに思いを寄せていた私にとってバイブルだった『奈緒子』。憧れの地、壱岐に空き家があると知ったら行くしかないでしょ！！

長崎空港から壱岐へ向かう飛行機で調べてみると、壱岐島は車で1周120分ほどの小さな島なのに、絶景スポットも絶品グルメも温泉も城跡も神社もあるらしい。しかも麦焼酎発祥の地で、豊富な穀物と良質な水を使った極上の壱岐焼酎が飲めるんだとか。豊かな自然と美しい風景を兼ね備え、食の宝庫でもある壱岐は、”夢の島”と呼ばれているそう。

夢の島！なんて素敵な響き！つぎつぎ出てくる魅力的な情報にすっかり浮かれていると、飛行機が壱岐空港に着陸。え、まだ30分しか乗ってないんだけど……。

あっという間にたどり着いた壱岐空港から車で2分。え、もう着いたの？離島だからもっと険しい道のりかと思っていたのに、あっさりと到着してしまった今回の目的地。お目当ての空き家はこの辺りのはずなんだけど……。

え、まさかこれ？なんか、なんか、、

思ってたより大きいんだけどぉぉぉぉぉ！！！！

慌ててスマホで間取りを確認する。

いやひっろぉぉぉぉい！！！

この建物は一体なんなんだ？私の手に負えるのか？

ドキドキしながら敷地に入ると、足洗い場が。さすが海チカの離島物件。近くに海水浴場がいくつもあるみたいだし、貝くんとバカンスを過ごすのにぴったりの物件かもな。

入口の扉には「白浜荘」なる文字が。もともと民宿だったのかしら？だからこんなに大きな建物なのか！と思いながら、貝くんとのバカンスに胸を弾ませ空き家の中へ。

で、でたぁー！！空き家名物、壁に生える謎のツタ！！おまけに剥がれ落ちた床や壁のタイル付き。う～ん。これはなかなか手強いな。でもまぁ、このくらいなら貝くんを呼ぶ前にちゃちゃっとお掃除すれば大丈夫よね。うん、大丈夫大丈夫。

気持ちを切り替えて空き家の中へ。

で、でたぁー！！またしても空き家名物、残置物！！

家具、家電、看板、枯葉に謎の木。これじゃあさすがに生活できない、貝くんを呼べないよ……。

小学生の頃から憧れていた壱岐島、私には縁がなかったのかな。思わず涙が出て、空き家を飛び出し駅伝選手並みの猛ダッシュ。走って走って走ったら、目の前には綺麗な海が。

あぁ、なんて綺麗な海なんだろう。青い海、白い砂浜、輝く貝くん……。

私やっぱり、貝くんとこの海を見たい。よし、決めた。決めたよ貝くん。私、あの空き家をリノベーションする！！

そうと決まれば急いで空き家に戻って、まだ見ていなかった2階へ行ってみる。宿泊者用の個室だったと思われる部屋がいくつかあるみたい。

あら、2階は残置物もほとんどないし案外きれい。いいじゃんいいじゃん！

広めのバルコニーも良い感じ！ここで貝くんと2人、星空を眺めながらBBQや花火ができたら最高かも！星空の下で微笑み合う２人を想像したら俄然やる気が湧いてきた。よし、レッツ☆リノベーション！！

まずは建物の顔、玄関からだ！！

なんということでしょう。空き家名物、壁に生える謎のツタとタイルがなくなり、さっぱり綺麗な玄関へと生まれ変わりました。これでこの空き家の第一印象はかなり良くなったはず！

次は残置物だらけの1階だ！！

じゃじゃ～ん！！家具も家電も看板も枯葉もほとんどの残置物を処分＆一部の天井をなくしたことで開放感のある明るい空間に生まれ変わりました！！

1階奥の部屋にあったイケてる棚は使えそうだから残しておくとして、問題は異様に存在感を放っている謎の木。少しずつ移動して処分するか、と動かしていたら、あれ？この角度めちゃくちゃイケてない？よし、このままインテリアにしちゃえ～！！

うん、すごく良い。キッチンも使いやすそうだし、残置物だらけの空き家だったとは思えないおしゃれな空間になってきたぞ～。

木のインテリアを置いた部屋の横にある廊下は、骨組みだけの状態。ここは追い追い作業していくとしよう。

さて次は、、、

男湯と女湯、2つの浴室があるお風呂場はどうしたものか。う～ん。物件の使い道も決まっていないから、脱衣所を整える程度でここは一旦保留にしておこう。

よし、次は2階だ！！

どーん！！こちらも1階同様、古い天井、一部の床や壁を取っ払うことで開放感のある空間に。家全体の日当たりがかなり良くなった印象。

状態の良かった部屋は、床や壁を整えてそのまま個室として使えるように。トイレにはきちんとドアをつけてプライバシーを守ろう。うん、良い感じ！！

仕上げに置いたおしゃれな椅子に座って空き家の中を見渡す。これでようやく貝くんを招待できそうだ。ここから先は用途によって内装が変わってきそうだし、貝くんと相談しながら２人でゆっくり手を加えていけば良いよね！リノベ物件だからお値段は張るけど、この素敵な空き家を見たらきっと貝くんも喜んでくれるはず。

だけどこれだけ広くて開放感があると、2人で使うにはもったいないような気もするな。２階の個室を活かしてもう１度民宿もできそうだし、マリンスポーツに来た観光客が立ち寄って休めるちょっとした銭湯や食堂を始めるのも良いかもしれない。いや、いずれ貝くんと結婚した時に、お互いの親せきや友達を呼んで、大人数で遊んで泊まれる贅沢な別荘として使うのもありかも。ふふふ、リノベ後はいつにも増して妄想がはかどっちゃう！

あ、もうこんな時間だ！今日は車で16分の芦部港から、約1時間ジェットフォイルに乗って、博多港経由で地元に帰ろう。待ってろ貝くん～！！

「空き家をリノベーションしました。私と一緒に、壱岐島に行きませんか」。

ジェットフォイルに乗りながら、貝くん宛てに書いたメールを何度も読み返す。そして、さすがの私でも気付いてしまった。初恋相手のために離島の空き家をリノベーションするのは、いくらなんでも重過ぎる。こんなメール、やっぱり送れない。く～、あんなに頑張ってリノベーションしたのに！！私と貝くんの壱岐島での生活は、一時の儚い夢だったのか……。

「誰かあの空き家を使ってくれ～～～！！！！！」

小さくなっていく壱岐島に向かって叫びながら決めた。あの空き家が素敵な人の手に渡ることを祈りながら、今夜は壱岐焼酎をたらふく飲んでやるー！！

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